開催概要
開催日時: 2025年10月9日(木)19:00~21:30
会場: Cast Switch 第二工場
参加者: 製造業専門家5名(設備保全、生産技術、継続的改善、経営者等)
結論:製造業に必要なのは「横のつながり」だった
今回の勉強会で最も痛感したのは、製造業の人たちは意外と孤立しているということです。
農業やってる人たちは普通に集まって情報交換してるのに、製造業では「自分たちで何とかしないと」って一人で悩んでる人が多い。でも実際に集まって話してみると、「あ、それうちも同じ!」って共感の嵐でした。
同じような課題を抱えているのに、それぞれが車輪の再発明を繰り返している。これって、めちゃくちゃもったいないですよね。
だから作りました。製造業の人が本音で語り合える場を。
現場のリアルから生まれた11の知恵
2時間半の議論から、教科書には載っていない「使える概念」が次々と生まれました。
1. 「触りすぎると、壊れる」オーバーメンテナンスの衝撃
残業規制で週末のメンテナンス作業が減ったら、予期せず機械の停止率が激減。「良かれと思ってやってた作業が、実は機械を壊していた」という実話に、全員が驚きました。
学び: 最適な介入レベルを見極めることが、本当のプロ。「何もしない」が最善手のこともある。
2. 「やればやるほど赤字になる仕事」の正体
一部の工程だけ効率化しても、後工程が追いつかなければ仕掛品が溜まる。劣化して修正の手戻りが発生。結果、不良率上昇。
学び: 部分最適は、全体最悪。工程全体の「流れ」を見ないと、頑張れば頑張るほど赤字になる。
3. 企業文化の違いが生む、圧倒的な差
経験: A3用紙1枚の稟議書が何度も差し戻され、書類作成に追われる日々。
ある会社での経験: 「まずやってみよう」の文化。投資効率30%以上なら即承認。稟議書はA4用紙1枚(ただし英語)。
同じ設備設計の仕事でも、企業文化でここまで生産性が変わる。書類作りに時間を費やすか、実際の改善に時間を使えるか。この差は大きい。
4. 協働ロボット、本当に導入すべき?
- 可搬重量20kgまで向上し、用途が広がった
- 安全柵不要で導入しやすい
- でも、各メーカーの差別化が見えにくい
- 投資対効果の算出が困難
- 中小企業では発注量変動で稼働が不安定
投資を回収できるかは、工場の稼働時間次第。24時間稼働なら元が取れるけど、1日数時間のパート作業を代替するだけでは、費用対効果が見合わない。
学び: 技術の可能性と、ビジネスとしての現実は別物。
5. 補助金の「本当の目的」を読み解け
「設備投資の補助」って名目だけど、政府の本当の狙いは「賃上げ」だったりする。
- 採択条件として従業員給与を3%以上引き上げる義務
- 5年間の報告義務など長期的負担
- コロナ禍の時期に比べて採択されにくくなっている
学び: 補助金申請は、政策の裏側を読むインテリジェンス活動。
6. 挨拶が最強の経営改善策
コストゼロ。効果、無限大。
「おはようございます」「ありがとうございます」「すみません」
これだけで、
- 風通しが良くなる
- 報連相が活発になる
- お客さんからの印象が上がる
難しい改革の前に、まず挨拶を徹底する。これが最もROIの高い経営改善。
7. 「技術の貯金」という発想
既存スキルで仕事するのは「貯金の引き出し」。
派遣で最先端の現場に入るのは「貯金の預け入れ」。
引き出してばかりじゃ、いつか底をつく。意識的に「預け入れ」の機会を作らないと、気づいたら市場価値ゼロになってる。
教訓: 市場の移行で、専門的な生産設備が不要に。設備保全課が丸ごと廃止され、40代の熟練技術者が職を失った。技術の価値は、一夜にして消えることがある。
8. 設備保全は「金食い虫」じゃない
設備保全業務は、生産性向上などの目に見える成果に結びつきにくいため、社内では「金食い虫」と見なされがち。でも、ある企業では一度設備保全部門を廃止したら、会社全体の機能が著しく低下。後に部門を復活させたけど、一度失われた人材やノウハウは戻らなかった。
学び: 故障による機会損失がデータ化されていないことが問題。修理対応の貢献度を正当に評価する仕組みが必要。
9. 紙は本当に「安全」なのか?
「紙は改ざんされにくいから安全」という思い込み。でも、後から分析できない記録は、どんなに安全でも意思決定には使えない。価値ゼロ。
学び: システム評価で大事なのは、「その情報で、意思決定できるか?」これだけ。
10. 市場調査より、まず友達作れ
エフェクチュエーションという起業理論。見知らぬ人と友達になるプロセスを考えてみて。最初から「親友になる」って計画しないでしょ?
事業も同じ。手持ちのカードで始めて、出会った人と一緒に、何ができるか考えていく。完璧な計画を待つより、まず一歩踏み出す。
11. プロンプト作家という新しいスキル
AI時代に必要なのは、コーディングスキルじゃなくて「問う力」。
優れたプロンプトが書ければ、プログラミング言語が書けなくても、AIに高度な仕事をさせられる。年齢も経験も関係ない。今日から誰でも始められる新しいスキル。
ただし、書籍を読んで理論を理解しても、実際に自分でプロンプトを作成する際には、適切な単語や命令が思い浮かばず、本に書かれている通りにはいかないという壁もある。
参加者の声
「他社の生の情報が聞けて、自社の課題解決のヒントになった」
「横のつながりができて、困ったときに相談できる仲間ができた」
「専門的な内容だけでなく、人としての在り方まで学べる場だった」
製造業が直面する最大の課題:技術者不足という時限爆弾
議論の中で最も深刻だと感じたのが、技術者不足の問題です。
長年の経験、知識を携えた技術者が今後定年等で枯渇していく。もちろん、それを補うようにAIの発達、IoT&DXの技術が進んでいくでしょうが、導入できる企業は一部のみで、大半の中小企業は置いてけぼり。
今までマンパワーで乗り切った企業ほど、緩やかに死んでいくのは避けられないと思います。
淘汰されて、その技術と生産力を吸収して大きくなる組織があればいいかもしれませんが、現状では機能していない。今後、中小企業が倒れていけば、日本自体の技術力、生産力も落ちていくでしょう。
時間との戦い
技術習得には時間がかかる。でも「今から育てる」意思決定ができない企業が多い。
- 2025年(現在):警告灯点灯
- 2030年:臨界点(50代技術者の大量退職)
- 2035年:回復不能点(技術承継の完全断絶)
今から対策して効果が出るのに5年かかる。実質タイムリミットは今です。
中小企業のジレンマ
若手を育てても、より良い条件を求めて大企業に流出する。投資が回収できない。
補助金は複雑化し、条件も厳しくなっている。先行投資して不採択になれば、資金繰りが悪化する。
なぜ「水平的つながり」が必要なのか
だからこそ、一社で抱え込まずに、業界全体で知恵を共有する場が必要だと思うんです。
他社は競争相手であると同時に、共に学ぶパートナーでもある。お互いの課題や解決策を共有することで、業界全体のレベルが上がる。
それが「変革の夜学」の存在意義です。
